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「遠いから、まだ行っていない歴史のまちへ」
~寺町めぐりと新宮城跡を歩く~(前編)
東京駅から新幹線と特急を乗り継ぐ。

平日の新幹線は、スーツに身を包んだサラリーマンに占拠され、距離を重ねてもまだ東京にいるかのような不思議な空間が広がっていた。
江戸と尾張、大坂といった経済圏を結び、それを往復する企業戦士を淀みなく運ぶ東海道新幹線は、形は変われど、ほんの200年前まで行われていたという参勤交代をも思わせる。そのようなことに思いをはせるのもこれから向かう先のせいなのだろうか。何しろこれから向かうのは日本書紀にも書かれ、神代の時代から語られる地。東京-名古屋間などはまだまだ“近代”にすぎない。

名古屋に到着すると、特急「ワイドビュー南紀」に乗っていよいよ新宮へ。ここまで来ると、スーツ姿はほとんど見られない。 トンネル内の車窓に写りこむ自分の姿だけが、まだ東京の面影を引きずっている。 新宮までの約3時間半、特急に揺られながら時間を遡っていく。 熊野参りの始まりだ。

新宮に着くと、ホームで迎えてくれたのは、3羽の八咫烏だった。
神武天皇を導いたといわれる熊野の神々の使い。
駅にて旅人を迎える八咫烏は、熊野信仰がこの新宮の地に息づいていることを再認識させてくれる。
なお、伊勢神宮から熊野三山を目指すルートを熊野古道「伊勢路」という。
昔の人は何日もの時間をかけて、途中の宿場などで寝食を重ねながらたどり着いたに違いない。
かたや、特急で3時間半。
文明の発達は、宿場へ寄る時間など許してはくれない。
東京を8時に出て、現在時刻は13時30分過ぎ。
旅人のお腹具合を察してか、それともよほど物欲しそうに見えたのか。
新宮の旅は「食」から始まった。

焼肉スペシャル定食1500円
(税込み)
新宮駅からタクシーですぐのところに店を構える「焼肉 ひげ」は県内で唯一の熊野牛指定店。供給量が多くないため全国的にはまだまだ認知度の低いブランドではあるが、融点(脂が溶ける温度)が低いことから、サッパリかつクセのない味が楽しめる。

焼肉 ひげ
住 所 〒647-0044 和歌山県新宮市神倉4-3-19
電 話

0735-21-3488

営業時間 11:30~14:00(ラストオーダー13:30)
17:00~22:00(ラストオーダー21:30)
定休日 火曜日

すっかり満腹になり、いよいよ新宮散策へ。

しかし、お腹がいっぱいになると、甘いものが食べたくなるのが世の常。 世の中には別腹が確かに存在する。そのようなことを考えながら歩いていると、景色はどんどんと昭和の街並みへ。やはりここでは東京とは時間の流れ方が明らかに違う。悠久の大自然に神話の時代を感じたと思えば、このような小路で懐かしい風景と出合い頭にぶつかるのだ。そしてこれは夢か錯覚か。目の前に広がっていたのは、かき氷屋だった。 時は1月17日、である。

「創業年? いつだったかしらね~。50年以上はやっているかしら。」気さくな女将さんが出迎えてくれた仲氷店は年中無休のかき氷専門店。某新聞社の「並んでも食べたいかき氷・西日本編」でもランキングされるほどの人気店だ。季節柄、さすがに並ぶことはなかったが、お店を紹介してくれた新宮市の方が懐かしそうに綻ばせた表情から、この店の歴史と人気をうかがい知ることが出来た。 この店の1番人気はじゃばら金時(600円・税込み)。近年、花粉症に効果があるといわれ話題となっている近隣の北川村から取れる柑橘を使ったかき氷は、サッパリとした甘さとフワッとした口当たりが特徴。また、スイカ氷と言われるかき氷はなんと200円。
インスタ映え必至!
じゃばら金時と反対にスイカの形にしっかりと固めた氷に甘めのシロップが染み込み、こちらも美味。紀南地方ではよく見られるというスイカ氷も、今では新宮に1件、勝浦に1件のみとのこと。
なお、テーブルの上のミカンは食べ放題。さすが和歌山。

仲氷店
住 所 〒647-0044 和歌山県新宮市新宮551-12
電 話

0735-21-5300

営業時間 8:00~20:00
定休日 年中無休

氷で体の中からサッパリしたところで向かった旧市内(旧新宮市)は、寺町通りとも呼ばれ、寺院が密集するエリア。
熊野速玉大社や神倉神社など神話や神道の聖地と思われがちだが、熊野は「神仏習合の地」。つまり「もともとある日本古来の神様も大陸より伝来した仏様も、どちらもお祀りしましょう。人々が安らかになるならばそれでOK。」というような、とても現代的かつ日本的な場所である。それが冒頭の「蟻の熊野参り」のように、万人から篤い信仰を受けた理由かもしれない。

寺町最初のお寺は宗応寺。
新宮で一番古く1000年以上の歴史を持つ宗応寺は、聖徳太子の創建と伝えられ、奥座敷には「聖徳太子二才像」が祭られている。教科書などで見る聖徳太子は髭を生やした成人の姿がほとんどであり一見すると聖徳太子とは思えないが、二才像を目の当たりにすると不思議と聖徳太子とのゆかりを感じることが出来る。
聖徳太子二才像
 また、600年前に制作されたといわれる涅槃図(お釈迦様が亡くなられた時の様子を描いた図)も保存されており、毎年2月の中旬に1週間ほど一般公開しているという。
東陽山宗応寺
住 所 〒647-0015 和歌山県新宮市千穂1-3-34
電 話

0735-22-3898


次に訪れた瑞泉寺は通称・大寺と呼ばれ、文化財となる梵鐘と3階建て櫓造の鐘楼を持つお寺。
333年前に作られたというその梵鐘は約50年前までは生活の鐘として2時間に一度鳴らされており、ここでも生活と信仰が密接に結びついている。
 また、このお寺ではなんと文化財のこの鐘を撞くことが出来る。
住職の案内で櫓の急な階段をゆっくりと登ると、そこには人々の時を刻んだ鐘が静かに、そして大きな存在感を放っていた。ここでは鐘を撞いた後、約1分半ほど手を合わせ目を瞑る。祈りを捧げるためではない。余韻を聞くためだ。 「意外と長いでしょう?」
思わず目を開けたくなる心を見透かしたかのような住職の言葉に、日常の時間感覚がどれだけ前のめりであるかということに気づかされる。今も昔も同じだけの時間が流れているはずなのに。
最後にこのお寺には青髪の仏像がある。住職曰く、これが本来の仏像の髪の色とのこと。とはいえ、金色の仏像に慣れた身としてはかなりファンキーな印象を受けたので特筆すべき点として添えておきたい。

文化財に指定されている梵鐘
青髪の仏像。これが本来の仏様という
神光山普照院瑞泉寺
住 所 〒647-0006 和歌山県新宮市薬師寺2-14
電 話

0735-22-5762


寺町めぐり最後のお寺は本廣寺。
2019年、入城400年を迎える新宮城主・水野家の菩提寺として 知られるこのお寺には、 一般公開はされていないが5代目城主・水野忠昭公に仕えた江戸千家中興の祖、茶人・川上不白の茶器などが残されており、他のお寺と違った当時の武家の凛とした空気を感じることが出来る。
納められている
川上不白ゆかりの品々
お茶をたしなむ方は聖地としても訪れておきたいお寺だ。
恵雲山本廣寺
住 所 〒647-0081 和歌山県新宮市新宮656
電 話

0735-22-2801


日も落ち、散策を終えた新宮初日の最後は熊野比丘尼による曼荼羅絵解きが行われた。
江戸時代、「蟻の熊野参り」と賑わった熊野ではあるが、それ以前は貴族の参詣もしくは修験者の往来がほとんどだった。前述の「神仏習合」のような熊野の持つ懐の深さもさることながら、庶民にまで熊野信仰が広まったのはこの熊野比丘尼による布教活動があったからだ。布教はもちろん、その目的は熊野三山の社殿の修復資金集めとも言われているが、その功績は特に当時、遠出をすることができなかった女性や子供にとって無視することは出来ない。実際にこれらの層にも理解が出来るように、曼荼羅の中で夫婦円満の重要性が盛り込まれていたり、子供でも分かるようなイラストで地獄や極楽を描かれているのが興味深い。
当時の衣装に身を包んだ
比丘尼の絵解きは迫力満点
比丘尼による絵解きは20~30分。
まちなか観光情報センターに事前予約をすれば受けることが出来、また、速玉大社近くの川原家横丁内でも土日祝日のみ開催している。
まちなか情報センター
住 所 〒647-0081 和歌山県新宮市新宮656
電 話

0735-23-2311


新宮での1日目が終わり、2日目はいよいよ熊野三山へ。
歴史を巡る旅はまだまだ続きます。

(取材/文:mitsu)
※後編は来月アップ予定です

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